2017年10月20日 14:35
10月3日、多くの期待を受けつつWindows 10/Xbox Oneでローンチを果たした「Forza Motorsport 7」。これはただのレースゲームではない。両機種のクロスプレイやゲームのオーナーシップが共通化されるXbox Play Anywhere(XPA)プログラムに対応し、WindowsとXboxの垣根を超えた新世代のゲーミングを実現。11月登場のXbox One Xを見据えた4K・HDRグラフィックスへの最適化や最新のグラフィックスAPIであるDirectX 12の活用など、最先端の基準で開発された1本。マイクロソフトプラットフォームを代表するフラッグシップタイトルだ。
特に、シリーズのナンバリングタイトルとして初めて対応したWindows 10では、Xbox One Xの登場を待たずに4Kでのプレイが可能であり、さらにXboxでは不可能な120Hzオーバーでのなめらかなフレームレートでも楽しむことができる。Windows 10オーナーのみならず、コアな「Forza」ファンにとってもWindows 10でのプレイが最もプレミアムな体験ということになるだろう。
それでいて、本作はXPAプログラム対応の教科書的なつくりになっている。つまりWindows 10で本作を所有すれば、自動的にXbox One上でも本作をプレイできるし、ゲーム進行度等のプロフィールデータも両機種で共通だ。また、XPAの機能としてクロスプレイもサポートしているため、両機種のユーザーが何も気にすることなく同じオンラインコミュニティで本作を楽しむことができる。
というわけで、本作はMSプラットフォームにおけるゲーム作品の鑑のような存在だ。そこは間違いないが、では、レースゲームあるいはレースシミュレーターとしてはどうだろうか。本稿ではそのあたりを詳しく見ていこう。
なお、筆者環境では10月4日午後まで本作のVIPパス(および付随するゲーム本体)のWindows 10版が正しくインストールできないという不具合が出ており、レビュー記事の提供が予定よりも遅くなってしまったことをお詫びする。
ハイレベルなグラフィックスは他を圧倒。システムはゲームとしての遊びやすさに注力
・4K・HDR基準のグラフィックスと感動的なリプレイ演出
まず前作「Forza Motorsport 6」からの進化点を見てみると、特に大きく進化したのはグラフィックス面ということになる。4K・HDR世代への対応のためほとんどのグラフィックス要素が刷新されたようで、高解像度のテクスチャを大量使用。そのインストールサイズはなんと99GB。実にBlu-rayディスク2枚分という凄まじいデータ量である。
このデータ量に裏打ちされた、車やコースのグラフィックス再現度は極めて素晴らしい。どこまで近づいてもアラが見えないほどに精密に描かれる各種の車は、単に精密であるだけでなく、HDR処理で描かれる風景からの様々な光を受けて、極めてリアルに、臨場感たっぷりに描かれる。ただ、本作はVR非対応であり、この美しいグラフィックスと臨場感をVRで楽しむことができないのは本当に惜しいところだ。
VRは非対応となっているが、そのかわりリプレイ演出は非常によくできていて、感動的ですらある。数十台の車が一斉にスタートする瞬間から、トップドライバーがゴールラインを踏むその瞬間まで、レース中の全ての瞬間がリプレイデータとして保存され、レース後に好きなだけ鑑賞できる。そして、そのカメラワークが本当によくできている。
強い横荷重で車体を傾けながらのコーナリング、直線をトップスピードで駆け抜ける瞬間、あるいは大きなバンプを乗り越えて、集団が地平線の向こうから現れる瞬間。コースごとに緻密に設定されたリプレイカメラが、全ての瞬間を迫力たっぷりに、車とコースの調和を保ちつつ描き出してくれる。
雨天や霧で視界が狭まっている状況や、薄暮や夕暮れの太陽を背に受けて走るシーンを捉えた瞬間などは、本作の4K・HDR水準のグラフィックス表現も相まって、誰もが見とれるほどの映像だ!かっこよく決まったレース後は、リプレイ鑑賞で疲れを癒し、次のバトルへの英気を養おう。もちろん、保存して「Forza TV」機能であとから見たり、コミュニティにシェアすることもできる。
・レーザースキャン&4Kテクスチャによるコース再現度
4K&HDR世代への刷新により、コース上の風景の再現度もシリーズ最高の品質となった。特にその凄さがわかるのが、全長20km以上という世界最長の常設サーキットであるニュルブルクリンク・北コースである。
レーザースキャンによる正確なコース再現を行なうことは今日、レースシム界では当たり前になっており、「Forza」シリーズでも「Forza Motorsport 5」からレーザースキャンによるニュルブルクリンク北コースを収録している。レーザースキャンで作られたコースは、基本的には路上の凹凸はもちろん、縁石の形まで本物と一緒になる(製作時の人為的なエラーが混入する場合を除く)。だが、映像的な再現度についてはどうしても差がでる。コース周りの木の生え方とか、コンディションに関係なく残っているタイヤ痕とか、路上の落書きとかである。特にこのコースではそれが顕著だ。
いま話題にしているニュルブルクリンク北コースは一般にも開放されていて、スポーツドライビングを楽しむ人々の聖地のようになっているが、沢山の人がレジャー目的で訪れることもあって、路上には大量の落書きがあるのも名物である。その再現度が本作は異常なレベルで高い。
他のゲームでいうと、「iRacing」では同じパターンの繰り返しが多く現実とは全く違い、「PROJECT CARS 2」もきれいなままの路面が多すぎたり、名物コーナー前のよく見る落書きのパターンが違っていたりして、ブレーキングポイントを覚えるのに別の目印を必要としたりする。「Assetto Corsa」はかなり頑張っているが、映像で見る本物に比べると、セクターにもよるがやや密度が低い傾向がある。個人的には、コース上の落書きをすべてくまなくチェックしたわけではないが、コース全体を通じたときの密度感とか、ブレーキングポイントの参考として色や形まで覚えている落書きの再現度といったポイントで見ていくと、「Forza 7」のそれが最も完璧に近い。
そして、フルHDR素材で作られた空の空気感や、周囲に溢れる光と影が織りなす立体的な風景の再現。そこにしっくりとおさまる、高精度に再現された車両。すべてが組み合わさって作り出されるレースシーンの映像美は、間違いなく「Forza 7」がトップの出来栄えである。いったいどれだけ大量のデータを使っているのか、中身を見てみたいほどだ。
ただ、すべてのコースで完璧というわけでもない。たとえば、人気のサーキットであるスパ・フランコルシャンについては、一周しただけで最終コーナー(バスストップ・シケイン)の縁石形状が現実と大幅に違うことに気がつく。本来は、シケインの内側にあるはずの、インカット防止用の盛り上がりが本作にはなく、縁石を越えてもスムーズに走れてしまうのである。また、縁石そのものも全く角度がついておらずインカットし放題になっている。他のゲームでは、ここを踏むと車が跳ねて危ないという地点だ。このあたり、体に染み付いていることもあって、すぐ違いに気づくことができた。
といった形で、本作では一部再現の甘い部分があるのも間違いない。とはいえ、他のゲームで相当走り込んだコースであるとか、実際のレース観戦で数百回は見た、みたいなコースでないと気が付かないような差異ではある。
・ゲームシステムは他より「ゲーム的」に
この秋続々と発売されているレースゲームの中でも、「Forza 7」は特に“ゲーム”よりにチューンされた作品という印象がある。大雑把に分類するなら、本作は極めてハイレベルな車両シミュレーションを核に持ちつつも、その上にゲーム的な厚化粧を施して、万人のために念入りに調整された“Simcade”だ。
具体的に言うと、“レースシム”では必須の要素のいくつか本作にはない。本作でプレイできるのはシンプルなワンショットレースだけで、予選によるスターティンググリッドの決定から決勝レースへの流れといったものや、レース中のタイヤ交換や給油を含めたピット戦略などの、実際のレースで見られる込み入った要素はない。コーナーカットや他車両への接触等によるペナルティの概念もないので、なんでもいいからとにかくトップに立てば勝ち、というレースだ。基本的にこのあたりの、レース“ゲーム”としての骨格はシリーズを通して変わっておらず、いわば、往年のアーケード用レースゲーム(ワンコインで即楽しい事が大事)からの流れを王道的に引き継ぐ内容となっている。
リアルなスポーツドライビングを体験させる系のシム要素は薄いが、そのかわり、レース以外の車を使った遊びは他を圧倒して充実している。例えば、コース上に設置されたコーンの間を走るオートクロスや、車番組「TOP GEAR」由来の、コース上のピンをできるだけ倒しながら走るカーボーリングといったものなども収録されており、いつもとは違った車遊びを楽しめる。もちろん、700種類以上という大量の収録車種をコレクションしていく要素も、本作の骨格を構成する部分だ。諸々の要素を総合すると、本作はシム的な難しさよりも、車を主題としたゲームとしての面白さに大きく舵をとった内容であることは間違いない。
・ゲーム性を拡張する新システム「レアリティ」
プレーヤーにひたすら楽しさを提供するゲームであるならば、やはり長期的なプレイにも面白い仕掛けが欲しいところだ。というわけで本作には長期プレイの柱となる、多数のレースイベントが収録された「Forzaドライバーズカップ」とカーコレクションのシステムを軸に、プレーヤーの成長要素がゲームプレイの大黒柱に位置づけられている。
「Forzaドライバーズカップ」で段階的にレベルの上がる各種レースイベントに参戦し、レースで稼いだクレジットを使って新しい車を購入し、コレクションを充実させていく。新たな車で、また新しいレースに挑戦。これ自体は「Forza」シリーズ伝統の流れだが、本作では「Forza Horizon」シリーズの蓄積もあり、総数723車種という膨大な車が収録されている。メーカーも年代もカテゴリーも様々だが、無秩序に車を買っていくだけでは味気ない。そこで本作では新たなゲームシステムとして「レアリティ」という概念が導入された。
「レアリティ」というのは、車のレア度のことで、従来のFランクからSランクまでの性能ランクに加えての分類だ。作中では「コモン」、「アンコモン」、「レア」、「スーパーレア」、「レジェンダリー」の5段階がある。これがプレーヤーのゲーム進行度を測る新たな基準となっている。つまり、高いレア度の車を買うには、クレジットを溜め込むだけではだめで、まずはレア度の低い車から集め、プレーヤーのコレクション階級を上げる必要があるのだ。
「コモン」には街でもよく見かける一般車がずらり。逆に「レジェンダリー」には、性能Sクラスのプロトタイプカーや、希少すぎて超大金持ちでもまず所有不可能な限定車やスーパービンテージカーが並ぶ。本作では実際のカーコレクターのように、まずは誰でも入手できる車でオーナー実績を高めて、メーカーに認められることでようやく本物の希少品を売ってもらえるようになる、というわけだ。
このレアリティという仕組みのため、本作のプレーヤーは従来作よりも多くの車を集めることになる。これが、新たな車に出会うきっかけとして機能することで、レースその他の遊びもさらに幅が広がる。
・レース毎に新たな攻略テーマを設定できる「MOD」システム
もうひとつ、レースに華を添える要素として「MOD」というものがある。これはカードの形で提供されるリワード増加要素で、それぞれのカードに書かれた攻略テーマ──“良いオーバーテイクをx回する”、“特定のアシストをオフにしてトラック上を走りきる”、“良いコーナリングをx回する”などなど──をレース中にクリアすると、そのカードに書かれた%ぶんのリワード(クレジットとドライバーレベルXP)を受けられるというものだ。
1枚に1つの攻略テーマが書かれたMODカードは、レース前に同時最大3つをカードスロットに装備できる。得意コースならコーナリング系のMOD、オーバルトラックなど敵車のごぼう抜きが期待できるならオーバイテイク系のMOD、いつもと違った設定で走ってみるならアシスト制限系のMODというふうに、レースに合わせた自由な選択が可能だ。
これ自体は前作「Forza 6」からあったものだが、今回、“レアリティ”という概念が導入されたことで、MODにもレアリティの概念がある。レアリティの高いMODは難易度が高めなぶんクレジット増加率も高く、ワンテーマで50、60%は当たり前。3つ同時に成功させればレースリワードを3倍程度に増額させることも可能だ。さらに、レジェンダリー級のMOD(いまのところはVIPパス特典のみしか見たこと無いが)は増加率100%。3つ同時装備で、レースリワードは4倍!
MODカードの入手は、本作におけるいわゆる“ガチャ要素”となっている「「プライズパック」を購入することが主要な手段だ。レアリティの高い=効果の高いMODが5つ同梱された「MODパック─プレミア」は50,000CRもする(レア車が1台買えるくらいの値段)のだが、MOD1つあたりのクレジット増加率は50%前後。MOD1つで1万CR以上を増額できないと赤字ということだ。簡単にいうと、素のリワードが2万CRを超えるレースに絞って使うのがおすすめだ。
特にリワードが大きいのは、周回数が多く、クリアに時間のかかるレース。いまのところ、本作のキャリアモードにあたる「Forzaドライバーチャンピオンシップ」ではスパ・フランコルシャンの23周耐久レースなど、ごく一部のイベントがこれを満たす。ここぞというところで超レアなMODを投入しよう!
業界トップクラスのシミュレーションエンジン。それを「Forza 7」はいかに遊ばせるか?
「Forza」シリーズはもともと、万人のためのレースゲームを目指し、リアルな車両挙動とゲーム的な遊びやすさの両立を追求してきたシリーズだ。その点で最も大きな進化があったのは3作前の「Forza 4」で、タイヤメーカーのピレリとの提携により非常にリアルなタイヤシミュレーションを実現してきた。
特にアシスト機能は秀逸で、好みに合わせて幅広い設定ができる。ステアリングとブレーキのアシストを最大値の「スーパーイージー」に設定すると、もはや自動運転車並みのオートマチック化がなされ、プレーヤーがアクセルをベタ踏みしているだけで全てのコーナーを完璧にクリアしてくれる。ただしライバルカーを避ける動きはしてくれないので、そこだけはプレーヤーが調整することになる。
ステアリングアシストはこのほか「アシスト」、「ノーマル」、「シミュレーション」という設定があり、「シミュレーション」では完全に生のハンドリングを楽しめるようになる。各人のレベルに合わせて、ちょうどいいところを楽しめるわけだ。
ちなみに、アシスト全開のロボットカー状態では全てのコーナーでパーフェクトを出してくれるが、それは本当の限界ではない。作中で設定されている理想の走行ラインがある程度保守的であるほか、アクセル制御が“ON/OFF”の2値で制御されるため、無駄が多いのだ。本当に良いタイムで走るためには、各アシストをオフにして、AIにもできないレベルで限界を攻めることが必要だ。腕利きのシムレーサーのためにそういう余地もきちんと残されている。
・ハイレベルなシミュレーションエンジンとチューニングの関係
本作でもその基本構造は変わっておらず、シミュレーションエンジンも味付け的には同系統だ。その出来栄えは、各種アシスト機能をオフにして、他のシムでも走り慣れた車を適切にチューニングしてから走らせてみるとすぐにわかった。
ここから先は、ステアリング設定を「シミュレーション」にした状態を前提に話をしていこう。この設定では、荷重移動によるタイヤの食いつき具合の変化、こまかいバンブによるトラクションの変動、4つのタイヤが個別に車体を支えているからこそ生まれる挙動などなど、極めてハイレベルなシミュレーションが行なわれていることがよくわかる。人為的な「味付け」みたいな要素はなく、物理的にこうあるべしという素直な挙動を感じられるのだ。
ただ、本作ならではの傾向みたいなものもある。その原因は各車デフォルトのチューニング設定に起因しているようなのだが、多くの車が極端にオーバーステア傾向の挙動を見せる。前輪のトラクションがしっかり維持されているのに、後輪が突然に限界を越えてしまい、車体のリアだけが横滑りを起こして、結果的に車体がコーナー内側に巻き込むようにスピンしはじめるという挙動だ。フォーミュラカーですら、あらゆるコーナーでドリフトしまくりである。
これでは運転しにくいし、クラッシュしなくてもスピードが死んでしまい、気持ちよく走れない。そこで、チューニング画面にて、リアタイヤを柔らかくしたり、キャンバー角を大きめにしたり、スタビライザーのバランスを変えたりでオーバーステア傾向のセッティングを試す。すると、一気に走り味が変わる。コーナリング中にリアタイヤがブレークしにくくなり、限界を読みやすくなり、トラクションをより活かした走りができるようになった。
このように、チューニング次第で大きく走り味が変わる……しかも、狙ったとおりに。というのは、本作のシミュレーションエンジンが極めて秀逸なものであるということの証明だ。それと同時に、デフォルトのチューニング設定が“恐ろしく走りにくい”ものになっているのが意図的なものだということもわかる。つまり、多くのレースゲームプレーヤーが素通りしがちなチューニングメニューに、極めて重大な意味を持たせることで、チューニングの面白さに触れてもらおうというわけだ。
ただ、1つ気になったのは、チューニング設定にいくつかの要素が不足していると感じられた点だ。例えば、タイヤ圧を左右で変えられない点。つまり、サーキットの周回方向に合わせ、アウト側のタイヤは硬めにして過加熱や異常消耗を防止するといった工夫ができない。また、エンジンブレーキの効き具合を調整する項目がないのも物足りない点。本作では荷重移動によるトラクション変化がかなり強く出るため、コーナーリング時にアクセルオフにするだけで後輪がスリップしたりするのだが、これを防止するにはチューニングではなく足元のテクニック(エンジンブレーキがかからないギリギリの範囲で微妙にアクセルを入れ続ける)で対応する必要がある。
このあたりの仕様をいったん把握してしまえば、本作でも充分に“シム的”な走りは可能だ。アシスト設定画面でステアリング操作などの各オプションを「シミュレーション」にすると、本作のシミュレーションエンジンが生み出す繊細な車両挙動を生で感じられるし、タイヤ摩耗や燃料消費によるパフォーマンスの変化もちゃんと再現できる。
ただ、これをアシストなしでまともに走るのはものすごく難しい。挙動がリアリスティックでシビアなだけに、ステアリング、アクセル、ブレーキといった各軸の操作に最高度の精密性が必要となるためだ。ゲームパッドで完璧に操縦するのはほぼ無理である。
そこで多くのレースゲームファンにオススメなのが、こういったシミュレーション機能は全てONにした上で、ABS・TCSといった加減速系のアシストを活用する設定だ。特にコーナリング中のスロットル調整はわずかな狂いが即クラッシュにつながるので、TCS機能は初心者向けの「スーパーイージー」をオススメする。
この設定ならXbox Oneコントローラー操作でも簡単にクラッシュにつながるような突然のリアブレークを防止できるし、それでいて、シム的な深みのある車両挙動もしっかり味わえる。TCSは万能ではないので、完全にトラクションを維持して最善の走りをするためには、依然としてプレーヤー自身による繊細なコントロールが必要。クラッシュで萎えるのを防止しつつも、シム的な腕の磨きがいもしっかりあるというわけだ。
・PCにおけるステアリングコントローラー問題
本作のシミュレーションエンジンが生み出す繊細な車両挙動を奥深くまで楽しむためには、やはり精密操作のできるステアリングコントローラー(ハンコン)が欲しいところ。やはりオススメは、ロジクール「G29」やスラストマスター「T300RS」といった、フォースフィードバック機構を搭載した高性能なハンコンだ。
本作はPC用ハンコンに幅広く対応しており、たいていの製品については設定画面にプリセットが用意されており、プルダウンメニューから自分のハンコンの名称を選ぶだけで最適な設定で使用することができる。軸やボタンの動作を個別に設定することもできるため、プリセットが用意されていないハンコンやその他のデバイスの使用も可能だ。
発売当初は、ステアリングの入力量に対してゲーム側がリニアに応答しないという症状が出ていたものの、最近のアップデートで解消されたようだ。現在は、デフォルトの「ステアリング感度」=100、「直進性」=50という設定で、ハンコン入力に対してリニアな応答が得られる。発売当初にハンコンの挙動に違和感があった人は、改めてこのデフォルト設定での走行を試してみて欲しい。
ちなみに筆者自身は、発売当初にハンコンがらみの問題が生じていた経緯から、かなり長時間、Xbox Oneコントローラーを使って本作をプレイしていた。
そこで、怪我の功名といっていいものかわからないが、Xbox Oneコントローラーでたくさんのレースをプレイし、走りを磨いていいるうちに、本作はゲームパッドでプレイする中で最高のレースゲームだ、という印象を抱くことができた。Xbox Oneコントローラーで制御可能な最低限のアシスト設定を探り、そこから最善の走りに挑戦していく。プレイするたびに実感する、着実な腕前の向上。そして、本作奥深くにある本格派のシミュレーションエンジンが生み出す、車両挙動から伝わる走りの情報量がなんとも心地良い。
それでも、さらに突き詰めた走りをするならハンコンを使う必要もでてくるだろう。ゲームパッドで限界を感じてきたら、4~5万円の高級ハンコンに手を出して、次のステージに進んでいこう。本作はそういう、広い間口を用意しつつ、レースシムファンとしてのステップアップを促すような厳しさと奥深さも兼ね備えたゲームだ。
ゲーム内容に現われるお国柄
それぞれの国や地域それぞれのモータースポーツ文化があるように、レースゲームはメーカーのお国柄が出やすいジャンルだ。日本の「グランツーリスモ」シリーズにおける、国内サーキットや国産車の充実度は他にないレベルだし、英国発の「PROJECT CARS」には、ヨーロピアンモータースポーツへのリスペクトと紳士的なフェアプレー精神がゲームの仕様に反映されている。イタリア生まれの「Assetto Corsa」はフェラーリの職人技のような風格と情熱を節々に感じられる作品だ。「iRacing」はアメリカ産だけあって、INDYCAR万歳!NASCAR万歳!と言う感じで、オーバルトラックの充実度が凄まじい。これらの作品は、もし、全作品が同じシミュレーションエンジンを使ったとしても、やっぱりそれぞれに、それぞれのゲームに仕上がるだろう。そこがレースゲームの面白いところである。
そして「Forza」シリーズは、もちろんアメリカ生まれである。そして、やっぱりいろんなところがアメリカ的で、ハリウッド的だ。グラフィックリソースに多大な労力とノウハウを投入して実現した、目を見張るような映像。ペナルティや、レース戦略といった面倒臭い要素を徹底排除したシンプルなゲーム性。アクセル全開推奨、接触上等の荒々しいレース!
また本作には全32サーキットが収録されているが、架空のものとテストトラックを除く実在の27サーキットをそれぞれの国別にカウントしてみたところ、アメリカ国内のサーキットだけで13もあった。内訳は以下の通り(アルファベット順)。
Circuit of the Americas テキサス州
Daytona International Speedway フロリダ州
Homestead-Miami Speedway フロリダ州
Sebring International Raceway フロリダ州
Virginia International Raceway バージニア州
Indianapolis Motor Speedway インディアナ州
Sonoma Raceway カリフォルニア州
Mazda Raceway Laguna Seca カリフォルニア州
Road America ウィスコンシン州
Road Atlanta ジョージア州
Watkins Glen ニューヨーク州
Lime Rock コネチカット州
Long Beach カリフォルニア州
これに対してヨーロッパやアジア、南米などアメリカ合衆国以外の世界中のサーキット数は14であり、ほぼ同数にすぎない。東アジアにいたっては日本の鈴鹿サーキットが唯一の収録となる。こうしてみると、かなりのアメリカ偏重っぷりであることがわかる。
といった仕様のゲームゆえ、日本やヨーロッパ的なレースゲームの基準に照らすと、物足りない部分も当然ながらある。例えばイタリアのイモラ、オーストリアのレッドブルリンク、モナコのモンテカルロ市街地コース、日本の富士スピードウェイといった伝統と格式ある国際的人気サーキットが欠けているのはレースゲームファン的に結構、痛いところだ。他のゲームでは大抵いくつかはある、ポイント・トゥ・ポイント式のクロスカントリー系コースもない。ついでに書いておくと、本作にオフロード車はあるが、ラリークロス等のダート系コースはない。
収録車種のバリエーションは各国メーカーを幅広く取り揃えて文句なしだが、ドライバー視点で遊ぶと各車ともスピードメーターがマイル表示だったりする(HUD表示と違って、こちらはキロメートル表示に変更できない)。ダッシュボードを見て100キロで走っていると思ったら、100マイルだった!となるので、ご注意を。こういうところもアメリカ仕様なのである。
といった、本作の随所にみられるアメリカ的なゲーム仕様は、人によって好みの分かれるところだろう。あとになって「あれがないこれがない」といっても無益なので、ひとまず、本作はそういうものだと知った上で触れてみる構えは有用かもしれない。
コミュニティ機能とオンラインマルチプレーヤー
本作はWindows 10とXbox Oneという2つのプラットフォームの垣根をなくすXPAプログラムを採用したことで、オンラインマルチプレイと各種のコミュニティ機能もWindows 10/Xbox Oneが一つの世界でつながるようになっている。おかげで、デイワンから世界中のプレーヤーと対戦できるし、シリーズ伝統のカーペイント機能を駆使して作られた車両デザインも大量に利用できる。
特に、本作のシミュレーション的な側面を楽しみやすくしてくれているのが、チューニング設定の共有機能だ。自分でチューニングを詰めるのは多くの人にとってあまりにも難しいのだが、世界にはチューニングを突き詰めることに大きな意義を見出したプレーヤーがたくさんいて、自慢の設定をコミュニティに提供してくれているのだ。おかげで、大抵の車で優れたバランスのチューニング設定を簡単に利用でき、走る専門のプレーヤーでもチューニングの面白さに触れることができる。
上述したとおり、デフォルトのチューニング設定は多くの車でいまひとつ走りにくく、最高のパフォーマンスを引き出しにくいものになっている。それだけに、チューニングの達人たちが作り上げた設定を簡単に利用できるのはものすごくありがたい。デフォルトで走ったあとに、人気のチューニングを試したらあっさり10秒タイムが縮まった、なんてこともよくある。複数の作者によるチューニングを走り比べて、自分にあった走り味を見つけるというのも面白い遊び方だ。
一方、オンラインレースについては、「Forzaリーグ」という目玉機能がまだ始まっていない(「間もなく公開」、となっている)こともあって、まだポテンシャルを十分に発揮できていない。
本作のオンラインレースは、ランダムマッチングで進行中のセッションに参加する仕組みになっており、好きなコースやレース設定のパブリックロビーを自分で作るというようなことはできない。レースカテゴリーとしては「クラシック」、「モダン」、「ヒストリック」、「スーパーカー」、「トラックトイ」の5つがあり、おおざっぱな車両カテゴリーは選んで参加することはできるものの、コースについては出たとこ勝負である。
また、他のモダンなレースゲーム/シムと違い、予選・決勝といった進行の概念もないので、全てのレースが一発勝負。スターティンググリッドもランダムで決まるため、どういうレースになるかは運次第である。
そして、繰り返しになってしまうけれども、接触やコースカットに対するペナルティがほぼ存在しないゲームなので、大半のプレーヤーがかなり乱暴な運転をする傾向がある。例えば、コーナにオーバースピードで突っ込んで、きちんと減速して回ろうとしている相手の横っ腹に激突して弾き飛ばしながらオーバーテイクするのは基本テクニックである。直線で抜かれそうになったら、相手のリアめがけて車体をぶつて押し込むという高速警察ばりの捕物技で相手をスピンさせるのもよく見かける風景だ。
この全てが同時に起きる、レース初頭の1コーナーは大抵のレースでものすごい風景になる。アポカリプス映画もかくやという勢いで、たくさんの車が煙と破片を撒き散らしながらあらゆる方向に飛び交う。その間、幸運にも混乱に巻き込まれなかった数台がはるか先に先行して、たいていはそのまま表彰台へ。
本作のレースはそういうもので、純粋なドライビング技術の勝負になることはそうそうない。個人的には、もっときちんとタイムペナルティや失格の概念を取り入れて、クリーンなレースができる環境を整えてほしいと思うが、それは本作の目指すところとは違うかもしれない。であれば、昔の「Forza」シリーズでフィーチャーされていた車でサッカーをする遊びなど、レース以外の何かをさらに加えていく方向もいいかもしれない。果たして、“まもなく公開”とされているeSports的要素「Forzaリーグ」ではどうなるのだろうか?
このほか、本作ではいくつかのオンライン連動機能が未提供である。プレーヤー間で車の売買を行なう「オークションハウス」や、本作で制作できる様々なコンテンツ(チューニングやカーデザイン)も含めて取引できる「マーケットプレース」、オンラインイベントとしてコミュニティに様々なチャレンジとリワードが提供される「FORZATHON」といった主要なオンライン連動機能が“まもなく公開”として、準備中だ。
こういったスロースタートな部分もある作品ゆえに現時点では物足りない部分もあるのは確かだが、Windows 10とXbox Oneを代表するフラッグシップタイトルとして、マイクロソフトおよびTurn 10 Studiosは引き続き本作をより良いものにし続けてくれることだろう。
【お詫び】NASCAR用車両の3Dモデルについて、「荒い」のではなく元々デカールやプリントで表現される「仕様」であるとのご指摘をいただきました。お詫びして訂正いたします。